アンコさんと椿の実

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アンコさんと椿の実

柳瀬美恵子さんは伊豆大島の2つの出帆港、元町港と岡田港で椿の実のアクセサリーをはじめとしたお土産店を営んでいます。

鮮やかな色でツヤツヤに彩色された椿の実には無料で名前を彫ってくれるので、旅の思い出にと購入される観光客の方が多くいます。そして、柳瀬さんの明るい人柄が惹きつけるのか、伊豆大島を訪れたら必ず立ち寄るお客さんもいるのだとか。

そんな柳瀬さんのご出身は伊豆大島からさらに南に60キロの神津島。
中学卒業後のこと。上京した帰り、神津島に渡る船に乗ったはいいが悪天候により伊豆大島停まりとなり、大島に滞在することに。

すると「仕事を手伝って欲しい」と声が掛かります。当時の伊豆大島は今では考えられないほど多くの観光客で賑わっていて、島の人々はみな猫の手も借りたいほど大忙し!そんなわけで旅館でお手伝いをするうち、そこで板前として働いていた旦那さまと知り合い、そのまま伊豆大島で暮らすことになったそうです。

当時、旅館で働く女性は皆アンコさん姿でおもてなしをしていたそうで、まだ薄暗い早朝に到着する船を提灯の灯りとともに迎えたり、旅館の玄関口ではアンコさん総動員でお客様を歓迎したり、それはそれは華やかだったそうです。

朝から晩まで忙しく働きまわるアンコさん。早朝の船を向かえるアンコさんは、翌朝すぐに出勤できるように頭の手拭いはそのままに就寝したほどだとか!?

すっかり島の観光業を支える一員として日々働いていた柳瀬さんですが、やがて今の仕事である椿の実のアクセサリーの制作、販売にも携わるようになりました。当時は、帰りの船を待つお客さんで船客待合所周辺は連日長蛇の列が出来ていました。そんな列に向かって椿の実のアクセサリーをたくさん籠に詰め込み、直接売りに歩くこともしばしばだったそうです。

「とにかく、あのときは島中が賑やかで、一緒に働く仲間もたくさんいたから楽しかったわ!」

「頑張ったご褒美に熱海の温泉宿に仲間と行ったりしてね!」

「アクセサリーづくりもみんなでおしゃべりしながら作ったから手間はかかるけど、辛いと思ったことなんてなかったわ!」

終始明るい笑顔でお話される柳瀬さんを見ていると本当に楽しい日々を過ごされてきたんだなぁ、としみじみ感じられます。そして、賑わっていた当時の島の様子も。

そんな椿の実のアクセサリーを制作・販売する人は今では片手の指で収まるほどに減ってしまいました。何より、アンコさんの姿を見かけることがほとんどなくなってしまった今の伊豆大島。

柳瀬さんは今日もアンコ姿で椿の実とともに笑顔でお客様をお迎えします。

※フリーペーパー「12class」第25号掲載記事より

Tsutomu Chiba writer
Tsutomu Chiba
 

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